東京高等裁判所 昭和27年(ラ)343号・昭27年(ラ)378号 決定
按ずるに、民事訴訟法第五百六十七条は第三者の占有中に在る物はその者が物の提出を拒まざる限り、執行吏においてこれが差押手続を為しうる旨規定しているのであるが、ここに所謂占有とは単に客観的外形的な事実上の支配関係を意味し、民法上の占有とは異り自己の為にする意思の存することは必要なく間接占有者の占有の如きは本条の占有に該らないものと解される。然るところ、本件に顕れた各疎明方法によれば、係争鉄屑は米軍放出品であつて、セント・ベルナデット・チャリティ・アソシエーション会長ベルト・ロザリー・フックこと北沢フックが落札したところ、利根越精鋼株式会社が右フックよりこれを買受け、同人の名において落札代金を米軍に支払い、且つ税関手続業者たる株式会社富島組に依頼し、右落札人名義を以て輸入申告手続を為さしめると共に、昭和二十七年二月五日及び同年三月四日の両度に自ら東京税関支署長に対し、該物品はその転売先たる相手方株式会社吾嬬製鋼所において緊急必要とする原料であり、これを保税倉庫に搬入するときは他の貨物と混同し損傷を来す虞れがあるので、直接右会社工場敷地に輸送したき旨を以て保税地域外蔵置の認許申請を為し、その頃これが認許を得た上同年二月七日より三月七日迄の間本件鉄屑約五百噸を東京都墨田区吾嬬町東四丁目六十四番地なる相手方会社工場の構内に搬入してこれが引渡を了し、爾来相手方会社において該貨物の保管に任じ、守衛社員等に看守を命じてこれが散逸、混同、搬出等の危険防止に当らしめてきたこと(なお該鉄屑のうち二九四噸六一〇については同年四月五日二〇五噸三六〇については同年五月九日それぞれ輸入手続完了し通関許可書が下付された)が認められる。即ち右認定の事実に徴すれば、本件鉄屑は相手方会社の事実的直接支配の下に置かれ、相手方がこれにつき前記法条に所謂占有を為していたものであつて通関手続完了前と雖も落札人にして輸入申告者たるフツク又はその買主たる利根越精鋼株式会社の事実上の占有に属することなく、まして税関の占有下にあつたものといい得ないことは明かである。而して関税は輸入申告者(所有者たると否とを問わない)より徴収すべく(関税法第四条)通関手続未済の貨物につき税関は関税行政権の作用として強度の監督権を有し、且つ関税未納貨物はその関税の担保たるべきものであるけれども(同法第五条)これが為め一般に税関が輸入手続未済貨物につき、強制執行法上の意義における占有を為すものといい得ないことは論を俟たない。保税地域内又は認許を得て保税地域外に蔵置される外国貨物は、税関が関税徴収の手続として関税法第四十六条以下の規定に基きこれを収容した時に至つて初めて税関の占有に帰し、税関は関税債務の為め該貨物自体につき担保権を行いうることとなるのである。敍上の如く、本件貨物は仮差押執行当時相手方会社の工場構内に搬入蔵置され、相手方の占有中に在つたのであるから、その承諾なくして仮差押の執行を為し得ざる筋合であり輸入手続未済の故を以て税関を右貨物の占有者なりとし、又は輸入申告者たるセント・ベルナデット・チャリティ・アソシエーション若しくはその会長北沢フックが占有者であると主張する抗告人等の所論はいずれも独自の議論であつて、到底採用することはできない。